Brushstrokes(2021)
《Brushstrokes》は、《
#smudge》で生まれた痕跡を、さらに立体的に展開した作品である。小林はデジタル上で抽出したストロークの色味をプリントし、それを鉄やアルミニウムの長方形の板に貼り込んだ。板金職人との協働によって、その板は曲げ加工され、ストロークの軌跡が彫刻的なフォルムとして空間に立ち上がる。
ここで扱われているのは、もはや「写真」とは見えない像である。もともとの色は写真に由来しているが、抽象化され、素材と加工のプロセスを経ることで、純粋なオブジェへと変化している。その変換のなかで、ストロークは「絵画的な一筆」と「写真の色データ」の両方を背負いながら、重力を持った彫刻として存在する。
小林にとって、この作品で重要だったのは二つの側面だ。ひとつは、写真を抽象化して立体に変えること。そしてもうひとつは、鉄やアルミという素材の重み、硬さ、加工の抵抗といった物質そのものに触れること。デジタル画面上の軽やかな編集行為とは対照的に、この板金のプロセスはアナログで身体的な編集として立ち現れる。
参照点としては、フランク・ステラとロイ・リヒテンシュタインがある。ステラが絵画の平面性を突き抜けて立体へ展開したように、小林もまた「平面から立体へ」の転回を体現している。同時に、リヒテンシュタインが筆触そのものを引用し、記号化して再構築したように、小林もまた「ストローク」という最小単位を抽出し、それを別の次元に翻訳している。ただしここでは、その記号化がさらに鉄やアルミという物質に託され、重量と触覚を伴う実体として立ち上がっている点に特徴がある。
《Brushstrokes》は、デジタルとアナログ、軽やかさと重さ、記号と物質が交差する地点に立ち上がった。ここで小林は、写真というメディウムを根底から翻訳し直し、そのプロセス自体を「もう一つの編集」として提示している。